六月大歌舞伎 玉三郎「桜姫」奇跡の演技、熱量失う観客席
6月の歌舞伎座第2部は、4月に続いて、仁左衛門と玉三郎の鶴屋南北作「桜姫東文章」の「下の巻」。チケットは発売早々に完売している。この2人での「桜姫」は36年ぶりだったので、4月は上演が実現したことそのものが「奇跡だ」と話題になり、公演が始まると、その2人の変わらぬ若さと美しさが奇跡だと評判になった。
「下の巻」前半は仁左衛門演じる清玄と権助が中心となるが、後半から玉三郎演じる桜姫が突拍子もない行動に出て、物語の主導権を得てぐいぐいと突き進む。見ていて、唖然とするしかない。二重の意味であり得ないものを見せられる。ひとつは、「こんな、あり得ない」という物語の奇想天外さ、もうひとつは、「あり得ないと分かっているけど、こういう人、いるかもしれない」と思わせる玉三郎の演技だ。やはり奇跡だ。
何も文句はない。ただ、客席が、冷静に鑑賞している雰囲気なのが気になった。4月は熱気があったのに、この1カ月間に、日本に何があったのだろうと思うほどの変化だ。(鶴屋)南北の退廃と猥雑が、清潔さと潔癖さが求められる時代に合わないのか。舞台と客席とがひとつになる演劇体験が蘇るまで、まだ時間がかかりそうだ。