六月大歌舞伎 玉三郎「桜姫」奇跡の演技、熱量失う観客席
■染五郎「京人形」はAIロボットも驚く完璧さ
第3部は、松本白鸚と市川染五郎の「京人形」が、まさに「いま」しか見ることのできないもの。染五郎も高校生となり、祖父・白鸚よりも身長が高くなった。変声期で声が安定しない年齢だが、それを逆手にとり、今月の染五郎はセリフのない役。美しい花魁の人形を演じる。適役としか言いようがない。機械っぽい動きと、女性らしい動きの両方ともが、人間っぽくなく、AIが仕込まれたロボットなのではと思うほどの完璧さ。
第3部のもうひとつ、猿之助の新作「日蓮」は、もとは大作として計画されていたがコロナ禍で難しくなり、1時間に凝縮し、日蓮という宗教スターが誕生する瞬間に焦点を当てた。
猿之助の新作は理屈っぽく、説教くさいものが多いが、その集大成。しかし、猿之助は自己陶酔している日蓮をきわめて冷静に、計算しながら、突き放して演じているように感じた。だから、ぎりぎりのところで、日蓮宗プロパガンダ演劇にしていない。
(作家・中川右介)