李麗仙さん追悼秘話 元夫の唐十郎さんが「また会おう!」と最後の投げキッス
22日に肺炎のため死去した女優の李麗仙(享年79)の葬儀・告別式が26日、都内の斎場で営まれた。喪主で長男の俳優・大鶴義丹(53)ら親族や友人、演劇関係者が参列し、李を見送った。
李麗仙(1987年に李礼仙から改名)は東京生まれ。1963年に劇作家・演出家の唐十郎(81)が主宰する劇団状況劇場(紅テント)に参加、看板女優に。67年には唐と結婚し、公私ともに唐の同志となった。
毒の華のような艶麗な演技と「特権的肉体」は全共闘世代の喝采を浴び、「アングラ(前衛劇)の女王」と呼ばれた。
状況劇場は新宿・花園神社、上野・不忍池をはじめ、ソウル(韓国)、ダッカ(バングラデシュ)、パレスチナ難民キャンプに転戦、李は海外でも人気を博した。
88年に唐と離婚してからは李麗仙秘演会(後にうらら舎)を通して代表作である唐の「少女仮面」や清水邦夫の作品などを上演した。
テレビではNHK大河「黄金の日日」のお仙役や、TBS系「3年B組金八先生」の教頭役などが印象的だった。
2015年には新宿梁山泊公演「少女仮面」で久しぶりに持ち役の春日野八千代を演じた。
往年の宝塚の大スター役で、客席脇通路から登場し圧倒的なオーラを振りまいた。一瞬、スーツの前ボタンが外れて胸がはだけるシーンも李自らの演出だったという。妖しい毒の華は健在だった。
耳元で思い出の劇中歌を
晩年は創作現代能に意欲を燃やし、自ら執筆した。
愛の妄執を描いた「六条御息所」(2017年)が最後の舞台となったが、翌年の「隅田川」が体調不良で公演直前に中止となったのは悔いが残ったことだろう。
死去の翌日、義丹に案内されて唐が李のもとを訪れた。2012年に脳挫傷で入院した唐を李が見舞って以来、9年ぶりの無言の対面だった。
李が好きだったユリやバラの生花が李が横たわるベッドの周りに飾られていた。
李の枕元の椅子に腰かけた唐はじっと李の顔を見つめていたが、突然、歌を口ずさんだ。
「75人で船出をしたが 帰ってきたのは唯ひとり……」
それは状況劇場「ジョン・シルバー」(1965年)の主題歌で、李のお気に入りだった。
歌い終わった唐はゆっくりと李の枕元に近づき、その顔をやさしく撫でた。そして立ち上がると、周りに聞こえるようなはっきりとした声で言った。
「李麗仙! また会おう!」
そして去り際に李に向かって投げキッスをした。
まるで状況劇場時代の2人の芝居を彷彿とさせる劇的な別れの場面だった。立ち会った義丹夫妻はじめ関係者は皆涙した。
離婚しても長年苦楽を共にした2人の絆は心の奥底で深く結びついていた。最期に唐に見送られたことは李にとって最高の花道だったに違いない。合掌 =本文敬称略
(演劇ジャーナリスト・山田勝仁)