<16>自叙伝を出版するのにドン・ファンは金を出し渋り約束を反故に…
■会社で直談判
とはいえ、2カ月を費やして書き上げた仕事である。黙って手をこまねいているわけにはいかない。2016年の夏前、大阪に取材に行った折に田辺まで足を延ばし、直談判をすることにした。
「おはようございます」
従業員が誰も出社していない早朝にアプリコに単身乗り込むと、ドン・ファンはひとりで新聞に目を通していた。私を見るとギョッとした表情を浮かべ、目が泳いだ。
「お約束はどうなったんですか」
声のトーンを落として静かに聞いた。
「ああ、あれなあ。もうええですわ」
こちらを見ないで新聞に目を落とし、笑ってごまかそうとする。
「ほう、そうですか。困ったもんですね」
怒りに火が付きそうなのをなんとかこらえていた。
「いろいろ、お世話になりましたね」
「ちょっと待ちなさいよ。そんなの勝手すぎるじゃないですか。ボクも時間と労力を相当使って調べて書いたんですから、約束を守っていただかないと困ります」