<16>自叙伝を出版するのにドン・ファンは金を出し渋り約束を反故に…
私がいくら言っても、ドン・ファンはのらりくらりを続ける。お金を出すことが惜しくなったということはよく分かった。
こんなヤツを信じた自分がバカだったと悔やんだが、これで引き下がれば文字通りタダ働きになってしまう。本人はキャラが立ち、生きざまはメチャ面白いのだから、これはなんとか世間に知らせなければならない。
「分かりました。それでは自費出版ではなくて出版社から出すように動きます。それでいいですか? 社長からは一銭たりとも頂きませんから」
「そうですか。それでお願いできますか?」
「その代わりグダグダと文句を言わないでくださいね」
「分かりました。申し訳ありませんが、それで何とぞよろしくお願い申し上げます」
社長はペコペコと頭を下げるだけだった。
私は社長礼賛のヨイショ原稿を、出版できるように大幅に直す作業に着手した。
(つづく)