<53>最敬礼でお出迎えしたドアマンに5000円札でチップを
マコやんはナビを合わせようとしたが、「ワシが言うとおりに行け」と後部座席のドン・ファンが声を出した。
「新御堂から淀屋橋を右に行けばいいですよね」
私が言うと、「いや、新御堂から中津で降りていけばいい」と、ドン・ファンが言い張る。私は何百回も新大阪駅からリーガに行っているので最短ルートも熟知していたが、面倒なので逆らうことはしなかった。
リーガの玄関脇に止めたベンツから降りたドン・ファンは玄関に向かった。
「いらっしゃいませ。ご無沙汰しています」
ドン・ファンに気づいたドアマンが最敬礼をした。すると彼は背広のポケットから無造作に紙幣を取り出して、ドアマンに握らせた。どうやらチップのようだが、5000円札だったので驚いた。
ちなみに彼は財布を持たず、お金は上着のポケットに無造作に入れていた。1万円札や5000円札が十数枚は入っているのが普通だったが、自分がいくら持っているのかを分かっていなかった。