<53>最敬礼でお出迎えしたドアマンに5000円札でチップを
「あれ? 吉田さんじゃないですか。お久しぶりです。どうしたんですか?」
ドン・ファンの後ろから付いていった私を見て、ドアマンが驚いたように声を上げた。
「彼とはちょっとお付き合いがありましてね、一緒に来たんです」
するともう1人のドアマンも私を見て、
「お久しぶりです。お元気そうで」
と、声をかけてきた。
「なんや、人気者やないか」
ドン・ファンが苦笑した。
「だから前から言っているでしょ。ここはボクの定宿ですから」
「本当だったのか……」
チップをばらまくドン・ファンが人気を集めるのは理解できるが、貧乏人の代表のような私がドアマンたちと仲良く言葉を交わしているのが、腑に落ちないようだった。(つづく)