飯野矢住代誕生秘話<21>「反省はするけど後悔はしない」というのが口癖
見かねた「姫」の常連客で音楽評論家の木崎義二が、妻と相談した上で、矢住代をしばらく自宅に下宿させることにした。単なる親切心か、もしくはマダムの山口洋子の依頼があったのか、詳しい事情までは判然としないが、木崎家での生活は矢住代にとって心からくつろげるものだったらしい。「週刊明星」によると、風呂から全裸のまま飛び出して、木崎の5歳の長男とじゃれ合うこともあったという。「自室から出るに出られず難儀した」という木崎の回想には実感がこもっている。同時に、次の“飯野矢住代評”にはうなずかされるものがある。
「そういう子供だから、世間の約束ごとに従ったり、物事をほどほどにするということができない。去年の夏すぎに訪ねてきたときも、1年分ぐらいあるんじゃないかと思われるおもちゃを意気揚々と持ってきて、ウチの5つになる子に、『ハイ、おみやげよ』といってドサッと渡すから、『いいかげんにしろよ』とたしなめたことがある。確かにルーズな面があり、人に迷惑をかけたろうが、損得の計算がまるでないし、どうしても憎めなかった」(同)
無秩序で無計画、自由奔放を絵に描いたような女、それが飯野矢住代だった。男が夢中になるのもよくわかる。そんな矢住代の前に、「今まで出会ったことのないタイプ」が現れた。歌手のSである。出会いは1971年2月9日。知人に連れられてSが「姫」にやって来たのだ。そのときのことを、矢住代本人は次のように振り返る。