飯野矢住代誕生秘話<24>俳優Iとの間に結婚話が一度も出なかった理由
俳優Iと付き合い始めた飯野矢住代は、週に1度は必ずIの自宅に泊まっていった。不思議なのは、結婚話が一度も出なかったことである。バンドマン時代のジョニー吉長にしろ、歌手Sにしろ、付き合ってすぐ結婚を意識したという矢住代だったが、Iとはそうはならなかったという。あくまでもIの証言によるものだが、「週刊平凡」(1972年1月20日号)もこう書く。
《とすれば、つねに結婚を夢見て生きた飯野矢住代という女にとって、Iという男はなんだったのだろう。ただ、孤独だった彼女の心のうえを通り過ぎていっただけの、ひとりの通過者だったのか。(中略)母の結婚生活を目のあたりに見ているために、矢住代はひといちばい、しあわせな結婚にあこがれた》
ただ、矢住代がすぐ結婚を意識しなかったのは、別の理由があったとみるべきだろう。母の辰子が持病の結核と心臓病、ぜんそくで清瀬市内の病院に入院していたからだ。病室を訪ねる矢住代の胸には、いつも豪華な見舞いの品々が抱かれていたという。ふぐ刺し、茶巾寿司、純白のシクラメン……。母子はたわいもない話で笑い合った。そして時間が来ると、矢住代は静かに立ち去る。そんな毎日を送りながら、結婚を考える余裕なども、なかったのかもしれない。