<87>早貴被告はドン・ファンの簡単な祭壇に一度も手を合わせなかった
夕方近くまで野崎幸助さんの遺体の脇で一人で過ごしていると番頭格のマコやんがやってきた。
「なんや一人かいの? さっちゃんたちは?」
携帯電話を取りにいったことを話した。この頃から家の前にマスコミ関係者らしき男女がたむろするようになり、何度もインターホンが鳴らされた。画面を見てドン・ファンと関係のない者は無視することに決めた。
マコやんが出て30分以上過ぎてから、やっと2人は戻ってきた。
「どこに行っていたの?」
「息が詰まるから少し喫茶店にいたのよ。遅くなってゴメンなさいね」
家政婦の大下さんはそう言って少し頭を下げたが、とても反省をしているような態度ではなく、早貴被告も当然といった態度だった。
「仏さまをほったらかしにしたら罰が当たるぞ。ご飯もかえていないし」
すると早貴被告は、インスタントのご飯をチンして茶わんに移してから霊前に置いた。