<87>早貴被告はドン・ファンの簡単な祭壇に一度も手を合わせなかった
この27日の晩から遺体がリビングに置かれたので、私は市内のホテルに部屋を取り、レンタカーでドン・ファン宅に通うことになった。
翌28日は朝から早貴被告と大下さんが警察署に呼ばれることになったので、必然的に私が留守番として遺体の置かれているリビングにいることになった。ご飯も水もかえていないのを見てドン・ファンが不憫だった。早貴被告は棺桶の脇に葬儀屋がしつらえた簡単な祭壇に一度も手を合わせることはなかった。
■自宅に集まりだしたマスコミ
マスコミの方々がインターホンを鳴らす頻度が増えて、家の前には常時2、3人が立っている。まだこれが事件であることを知っている社はないようだったが、明るみに出るのは時間の問題だろうと、私は思っていた。
「参っちゃったわよ」
夕方近くに戻ってきた大下さんが口をとがらせた。
「また携帯電話を没収されてしまって……。ないと不便だから」