五木ひろしの光と影<11>山口洋子は「男一匹の勝負を挑んでいる」と絶賛した
次の瞬間、司会の長沢純が「では平尾昌晃さん、いかがでしょう」と振ってきた。平尾はレギュラー審査員の否定的なコメントをかき消すかのようにこう反論した。
「僕は凄くよかったと思います。企画性を持たせるというか、彼に合った曲を作れば面白くなると思うし、絶対に化けると思う」
平尾の熱意が通じてか、三谷謙はどうにか1週目を勝ち抜いた。薄氷を踏む思いだった。
「ホッとしたなんてもんじゃないよ。あんなうまい出場者を落としていたら、番組そのもののコンセプトだって変わってくるでしょう。もちろん演出はわかるよ。でも、音楽に関わっている者としてそれは譲れない線だった」
平尾昌晃はさらにこうも言う。
「そういうことがあったから、この三谷謙のことがなんとなく気になる存在になったわけ。実力だけで言えば10週勝ち抜いて当然なんだもの。これが、あの最初のリハを見てなかったら、そこまで思い入れを抱くことはなかったかもしれない」
翌週、豊中市民会館で行われた「全日本歌謡選手権」の収録にはゲスト審査員として山口洋子の姿があった。第2週勝ち抜きに臨む三谷謙が選んだ楽曲は「目ン無い千鳥」(作詞・サトウハチロー/作曲・古賀政男)である。これまで、霧島昇、ミス・コロムビア、島倉千代子、大川栄策が歌ってきた気持ちを弾ませる明るいメロディーの楽曲である。