五木ひろしの光と影<27>歌謡界の金字塔・日本レコ大で「絶対にナベプロに勝ってみせる」
沢村忠を擁して新興のプロスポーツ「キックボクシング」で大成功を収めた野口修にとって、次なる目標は「別の業種でも大成功して頂点に立つこと」だった。山口洋子から「芸能部をつくってみない?」「売れない歌手一人預かってみない?」と話を振られたとき、渡りに船とばかり飛び付いたのはそのことがあったからだ。そして大成功を収めた今、目指すのは歌謡界の金字塔「日本レコード大賞」だったのは自然な流れだったろう。
生前の野口修に「最大勢力のナベプロに立ち向かっていくのはどういう心境でしたか?」と尋ねたことがある。彼はこう答えた。
「痛快だと思ったね。相手は巨大な戦艦みたいなもんだからさ。こっちは一艘の舟で斬り込みにいくようなもんで、『乗り込んで戦艦を乗っ取ってやる』という気持ちでね。だから痛快だったよ。やってて楽しかったし」
回想する野口修の表情は無邪気な少年そのものだった。前出のレコード会社の元重役の証言にもあったように、賞レース自体が歌手本人の戦いである前に「事務所同士の争い」ということであれば、戦うのは社長である自分自身なのだ。