(8)映画「柳生一族の陰謀」の大ヒットで“柳生十兵衛=千葉真一”が定着
「魔界転生」で柳生宗矩を演じたのは若山富三郎さん。日本一の殺陣の名手である。殺陣のスピード、美しさ、迫力とも群を抜いている。運動神経にも恵まれ、50歳を過ぎてもバク転、バク宙を軽々とやってのけ、弟の勝新太郎さんも「殺陣はお兄ちゃんにはかなわない」と舌を巻いていた。
その若山さんが「魔界転生」で演じたのは、天草四郎の妖術によって死から蘇った柳生宗矩。柳生十兵衛役と一騎打ちを行うのだが、私は日頃から若山さんに殺陣の指導を受けており、まさに師弟対決の一面もあった。しかも燃え盛る江戸城天守閣での対決である。撮影はスタジオ内に建てたセットを本当に燃やす中で行われた。普通は撮影用バーナーをセットの後ろやカメラの前に置き、あたかも建物全体が燃えているように見せるのだが、リアルな迫力を求める深作欣二監督はそれでは納得せず、撮影スタッフは我々と一緒に炎の中に入った。
撮影直前、深作監督に大声でクギを刺された。
「どんなに熱くなっても絶対に逃げるな!」
その熱さはそこに立っている者でなければ分からない。立っているだけで、カツラの毛先がジリジリ焦げてくるようだった。