<162>弁護士との共闘に向けられた記者たちの不思議そうな視線
「まあ、ゆっくりと警察に説明してよ。オレは近くで竿を出しているから」
「たくさん釣って下さいよ」
■取材者であり当事者
2人は笑いながら警察署に入っていった。私はマスコミの人間ではあるものの、ドン・ファン事件の当事者であるから警察が興味を持っていることは知っている。しかし前述したように、ドン・ファン宅の家宅捜索でのトラブルについて彼らから謝罪がないことにわだかまりを持っていたし、警察はメンツがあって私の事情聴取をしないのだと思っていた。
「なんでワシだけを何回も何回も呼ぶんや。吉田さんのほうがドン・ファンのことは詳しいんだから呼びなさいよ」
アプリコの番頭格のマコやんは10回近くも警察に呼ばれているので、その都度「吉田に話を聞け」と言っていたらしいが、いまだに警察からは一度も事情を聴かれていなかった。
私は市内の釣具店に預けてあった竿を手に取って、警察署から車で5分ぐらいの江川漁港の岸壁前に車を止め、竿を出していた。潮の匂いを嗅ぎながら竿を出すと、プルプルと竿先が細かく揺れて中指ほどの小さなイワシやサバが釣れてきた。こうやって竿を出していると世間の煩わしさから一時であっても解放されるような思いがする。
港と反対側の山の斜面がドン・ファンが眠っている墓地であることも、私にとっては安心を抱かせる感じがしていた。(つづく)