学生時代のぼくはジュークレコードで「対話」していた。誰と? レコード棚と。
1977年に福岡初の個人経営による直輸入レコード店を開業、ようやく5年が経ったころか。店名のジュークは、音楽酒場を意味するアメリカ南東部の黒人スラングと、松本さんの前職、学習塾(ジュク)の先生のダブルミーニング。まさに至高の音楽塾だった。
じつは中学、高校時代に店主の松本さんと直接話したのは数えるほどしかない。おっかなくて。おそれ多くて。でもぼくはジュークでたしかに「対話」していたのだ。誰と? レコード棚と。
侮ることなかれ、ジュークの陳列にはワザがあった。確固とした文脈があった。うろ覚えのミュージシャン名だけを頼りに棚を覗く。するとそのレコードの隣には、彼や彼女に近しい音楽性の、あるいは強い影響を与えたミュージシャンの作品が置いてあるのだ。だから商品の並びをじっくりチェックすれば、音楽の体系は自然と頭に入ってきた。もっとも、それが松本史観とでも呼ぶべき独特かつ極上の視座に基づくことも、ずいぶん後になって気づいたのだが。
時は流れ2012年、NHK Eテレでぼくの音楽性のルーツをたどる特集が企画された。ロケ地に故郷のジュークレコードを指名し、松本さんとの対談が実現した。撮影スタッフを引き連れて久しぶりに店を訪ねたぼくには、ある種の気負いや気取りがあったかもしれない。