学生時代のぼくはジュークレコードで「対話」していた。誰と? レコード棚と。
対して松本さんはあくまで自然体。博多弁丸出しで「あんた詰め襟ば着て、店の奥に座って、ようレコード漁りよったね」と相好を崩す。それでいて「レコード店ビジネスはダムのようなもの。一気に放流すれば川下は氾濫する、全部止めれば日照りになる。うまいあんばいに流しながら貯水の様子を見せていくのがコツ」といった鋭い言葉も出てくる。
そういえば松本さんはアフォリズムの名手であることを思い出した。値札には手書きで警句が添えられていたものだ。「涙の再会! この機会買い逃すまじ!」といった、客の心を突き動かす文言が。
ぼくがジュークで買った最も思い出深いアルバムは、マービン・ゲイの「スタボン・カインダ・フェロウ」。頑固者。博多弁だと「きがさもん(気嵩者)」だろうか。70年代の福岡で直輸入レコード店を開くという前例なき計画の成功を信じて疑わず、自己資金5万円ながら495万円の借金をして起業した松本さん。
当時をふり返るたびに「俺にあったのは120%の自信と99%の借金」というのがお約束だった。彼こそ「きがさもん」だったのでは。今のぼくにはそう思えて仕方がない。