「市川團十郎・新之助」襲名披露公演が始まり歌舞伎座にかつての日常がようやく帰ってきた
次世代の弁慶役者候補の染五郎、巳之助、左近が四天王で出ており、舞台の上で、市川宗家の芸を見つめている。その視線が交錯し、見えない火花が散っているのも、見どころのひとつ。
夜の部に口上。従来、市川宗家の襲名では数十人が舞台に並んでいたが、コロナ対策もあってなのか、当事者2人を含めて7人のみ。大幹部だけで、團十郎と同世代の役者は出ていない。そのせいもあって、どちらかというと、十二代目の話題のほうが多い。
「助六由縁江戸桜」では、團十郎の助六に、尾上菊之助が揚巻、尾上松緑が意休と、かつての新・三之助が久しぶりに舞台に並んだ。
菊之助の揚巻は、平成16年の海老蔵襲名の地方での公演以来で、歌舞伎座では初となる。最近は立役が多い菊之助だが、この揚巻で、女形としてのトップクラスの美と技芸を改めて示す。松緑の意休も初役だが、堂々たるもの。
単に團十郎の襲名披露だけでなく、團十郎、菊之助、松緑、幸四郎、猿之助の5人が、いまの歌舞伎の中心だと鮮やかに披露している。
(作家・中川右介)