追悼“歌舞伎界の異端爺”市川左團次さんの真顔で「どなたさまですか?」にヒヤリ
歌舞伎俳優の市川左團次(本名・荒川欣也)さんが15日、右下葉肺がんのため亡くなった。享年82歳。老け役から女方、敵役、そしてユーモラスな役柄を幅広く演じる歌舞伎界の重鎮。その人柄は、歌舞伎界やファンに限らず、多くの人を魅了した。
■「どなたさまですか? 何のご用ですか?」
日刊ゲンダイでも何度か取材させていただいたが、記者が初めて会ったのは、2014年の年の瀬、国立劇場(東京・千代田区)の稽古場だった。翌年の正月公演を控え、狂言「南総里見八犬伝」の稽古の合間を縫っての初対面。開口一番、真顔で「どなたさまですか? 何のご用ですか?」と尋ねられた時のことは、いまでも鮮明に覚えている。
この日の取材については、内容も含めてご存知だったにも関わらず、記者を試すかのような態度だったのだ。予想外の受け答えにビビってしまいアタフタしていると、いたずらっ子のようにニヤリと笑った。
「本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。こちらにお座りください」
自ら座布団を運び、こちらに差し出した。豪放磊落な一方で細かい気配りも忘れない。その後は、たとえ質問がセンシティブなところに及んでも、嫌な顔ひとつせず答えてくれた。役者としてはもちろん、人としても懐が広い。
一人息子である市川男女蔵との関係について尋ねたこともあった。テレビ番組に出演した際、本人の前で「嫌いです」と言い放った。その突き放すような言葉の真意を聞きたかったのだ。当時の記事を抜粋して左團次さんの「言い分」を紹介する。