追悼“歌舞伎界の異端爺”市川左團次さんの真顔で「どなたさまですか?」にヒヤリ
人に教える芸の域にまで達していない
~ダメ蔵の母とは離婚しまして、言うなれば、僕のわがままで小学校高学年の頃から離れて暮らしておりました。当時は小さな子供を一人で呼び出し、ご飯を食べようなんてことにはなりませんでしたし、僕も独り身の気楽さに甘んじていました。最近ではちょくちょく呼び出しては、一緒に食事に行ったり、前回お話ししましたようにゴルフにも行ったりしてますが、まずは、そんな経緯もある次第です。
彼に稽古をつけない理由も、それなりに考えるところがあります。僕自身、親父の3代目市川左團次から何か教わったことはありません。小柄な親父とは異なり、ずうたいのデカイ子供でしたから、自分と同じような二枚目や女形になることはないと見定めたのもあるでしょう。実際に親父の口から教えなかった理由を聞いたわけではないですが、僕が考えるにはこうです。
日頃の稽古の段階から親父を頼るのではなく、よその方のところへ行って、物を聞いたり習ったりすることで、他人さまのおっしゃることに聞く耳を持つ習慣を身につける。素直に聞ける。そういうことを望んでいたのではないのかなと。役者っていうのは皆さんそうじゃないかと思うのですが、自分の親が一番うまい、一番偉いと思っている。まず最初に一番うまい、一番偉い人から物を教えてもらってしまったら、大事な意見も聞くことができなくなりかねない。親父は僕の性格も考慮した上で育ててくれたのだと思います。ダメ蔵もそのあたりは分かってくれているでしょう。
それと同時に、僕は人に教える域にまで達していない。加えていえば、教え方のうまい人と教え方の下手な人がいるでしょう。どう考えたって僕は後者。器用とは程遠いので、ご要望ご期待には沿えないのです。~