本橋信宏氏がふり返る「北公次の告白」ジャニーズ性加害を見て見ぬフリしたメディアへの提言
覆面作家の禁を破り、内幕本を緊急出版
──それが1年後の1989年、ドキュメンタリービデオ「映像版 光GENJIへ」につながっていきます。本橋さんはこちらでも、「太田春泥」名義で、村西監督率いるダイヤモンド映像のターザン八木、日比野正明らと共に監督として撮影に挑むことになります。
原一男監督の「ゆきゆきて、神軍」のようなドキュメンタリー映画も意識していましたが、とにかく映像の監督は初めてなので大変でした。この時は公ちゃんとはだいぶ親しくなっていて、台本もなしに自由に話してくれました。ワンカットで目線を一度も外さずカメラに向かって激白する姿は、今見ると、つたない映像ですが、逆に裁判資料にもなりえる貴重な証言になっています。ただ、ビデオは当時、全然売れなかったようですが(苦笑)。
■四半世紀前に元Jr.7人が性被害を告発
──さらに驚いたのは、今回の端緒となった英BBCによるジャニー喜多川告発番組のはるか昔に、7人の元ジャニーズJrが顔出しで被害を告発していることです。
村西監督は「何としてもケツを掘られた少年を捜すんです。ケツです、ケツ!」と連呼していました。監督らしい露悪的な物言いですが、今回の性加害問題の核心をついていた。強制的な肛門性交は、当時でも傷害罪が成立したし、相手が未成年であれば、法改正前の当時でも逮捕案件です。
それで7人の告白者のうち、実際に肛門性交の被害に遭った3人の少年を捜し出しました。男性の性被害者は、その屈辱感や恥ずかしさから、告白までに時間がかかったり、口を閉ざす人が多いのですが、少年たちは、大スターだった公ちゃんがカミングアウトしたことに勇気づけられ、告白を決意したんです。
一方で、当時はLGBTQの概念もなく、警察に被害を訴えても、性加害は男性が女性にするものという固定観念があり、取り合ってくれなかった。今回も黙っていると、公ちゃんや少年たちの告発も、SNSなどでウソのものとされてしまう。公ちゃんの遺志を継ぐため、これは書き残しておかないといけないと考え、覆面作家の禁を破って、その内幕を描きました。
■大手メディアは被害者救済基金をつくるべき
──大手メディアや警察は今までずっとスルーしてきたわけですね。
ジャニーズ事務所は、トシちゃんの件では、村西監督が出演していたテレビ局や記事化した大手出版社に強烈な圧力をかけてきましたが、「光GENJIへ」の版元や映像版には手を出してこなかった。今、地上波のテレビ局からの問い合わせが殺到していますが、これはある意味、“サブカルチャーの逆襲”とも言えるわけです。
公ちゃんの思いが日の目を見るまで35年もかかった。やはり日本は外圧でしか変われないのか……。あの時、大手メディアがしっかりこの問題を報じていたら、被害の拡大を食い止めることができたのではないか。東京のド真ん中で、半世紀以上にわたって、数百人、下手すると1000人以上の少年たちが被害を受けてきたんです。見て見ぬフリをし続けた大手メディアの責任は重い。テレビ局や新聞社も出資して被害者救済のための基金を設立すべきだと思います。
(聞き手=平川隆一/日刊ゲンダイ)
▽本橋信宏(もとはし・のぶひろ) 1956年、埼玉県所沢市生まれ。早大政治経済学部卒。執筆内容はノンフィクション、小説、エッセー、評論。著書多数。村西とおる監督の半生を描いた「全裸監督」はNetflixによって映像化され、世界的大ヒットとなった。