(1)一緒に入った温泉で見た 渥美清の背中の「大きなノの字」の傷痕
防府天満宮そばで産湯につかり、捨て子同然にもらわれて育った少年がやがて役者となり、国民的映画「男はつらいよ」で憧れの渥美清と出会う。前田吟が初めて語る「男はつらいよ」。前田吟と寅さんの世界をお届けする。
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前田吟と渥美清の初共演は1966(昭和41)年に始まったTBSの1話完結ドラマ「泣いてたまるか」だった。その最終回のタイトルが「男はつらい」(68年)。主演・渥美清、出演は前田吟、小坂一也、「タコ社長」太宰久雄ら。この脚本を担当したのが稲垣俊と映画「男はつらいよ」を48作撮った山田洋次監督だった。
前田は68年TMC(東京メディアシティ)のレモンスタジオで憧れの渥美と初めて居合わせる。
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渥美(清)さんとの最初の出会いは「裸」でした。衣装部屋でね。渥美さんはスタジオで何かのドラマに出ていて、僕は別のドラマを撮るのでそこに行っていた。ドラマが違っても着替える部屋が一緒だから。
僕は着替えながら「今度『泣いてたまるか』の最終回でお世話になる、前田です」と挨拶しました。すると、渥美さんは「あ、そう」と何げなくおっしゃってから、「君が出てるのはよく見てるよ」と言ってくれた。あの渥美さんが僕のドラマを見てくれてる。そう思うとドキドキしてうれしかったですね。
その時、渥美さんも着替え中で裸でした。渥美さんとはそんな「裸の付き合い」から始まりました。
でも、もしかすると裸じゃなかったのかなと思った時があります。「男はつらいよ」の33作「夜霧にむせぶ寅次郎」(84年8月)でのこと。舞台は北海道の釧路、北海道ロケです。マドンナは中原理恵さんでした。熊が出てきて、大騒動になる話です。