(1)一緒に入った温泉で見た 渥美清の背中の「大きなノの字」の傷痕
役者を目指した僕の憧れの人
僕が演じた博さんは寅さんと違ってほとんどロケに出ません。ロケはシリーズ50作の中でも2回しかないかな。その1回が北海道ロケ。渥美さんとお風呂に一緒に入る機会がありました。中標津の温泉でしたね。その時に渥美さんの背中を見て驚きました。
「えっ」。渥美さんの背中に刀傷のような大きな痕があった。背中にグーッと斜めの傷痕が……。大きな「ノ」の字がクッキリと。渥美さんは若い時に結核を病んで肺の手術をしています。これがその時の手術の痕かと思いました。
渥美さんは共演者と一緒のお風呂に入るなんてことは普段はありません。でも、ずっと一緒に仕事をしている僕には隠すこともないと思ったんでしょうかね。渥美さんは何も言わなかったけど、さりげなく自分をさらけ出して見せてくれたのかもしれません。
そこで、ハタと思ったわけです。じゃ、最初に会った時の「裸」は何だったのか。僕はうれしさのあまり、僕も渥美さんも裸だと思っちゃったのかもしれない。渥美さんは下着、ランニングとかを着てらっしゃったんでしょうね。
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前田は初回「男はつらいよ」(69年8月)からシリーズ最終50作「男はつらいよお帰り 寅さん」(2019年12月)まで50年にわたって渥美と共演し続けた。
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共演する前から渥美さんの大ファンでした。渥美さんの映画はしょっちゅう見ていた。喜劇界のこれはという人は渥美清と決めていました。将来は絶対にこういう人と一緒に仕事をするようになりたいと思いながら。
そこにいくまで、少し話が長くなりますが、私の生い立ちからお話ししたいと思います。
(構成・文=峯田淳/日刊ゲンダイ)