治る見込みのない患者で占められた病床を目前に思ったこと
苦悶に耐えながら亡くなる患者を目の当たりにし、「何としてでも痛みは取り除かなければならない」と強く思うようになったという。
ちょうどその頃、世界保健機関(WHO)でもモルヒネの使い方を提示するなど、緩和ケアの取り組みが始まる。ただし日本では、そうした痛みに対し治療する医師は、まだ少なかった。
「最初は試行錯誤でしたが、次第に時間を決めて定期的に投与するなど、積極的かつ正しく使うことが有効だと分かってきたのです」
とはいえ今も昔も、モルヒネに抵抗感を覚える人は少なくない。他に打つ手がなくなったときに使う、副作用が強くて恐ろしい薬物というイメージだ。
「そう誤認している人は医療者にもいます。でも、モルヒネは正しく使うことで、それまでは痛みがあってできなかったベッドからの起き上がりはもちろん、自力でトイレ、食事をできるようになる方もいます。直前まで痛みを感じずに亡くなるケースも多いのです」
蘆野さんが使うモルヒネで、がん患者は痛みから解放された。しかし、入院患者からは「良くなったのに、なぜ自宅に帰れない」「帰れないならば、なぜほかの治療をしない」などの声が聞かれるようになった。