「祖谷物語―おくりひと―」蔦哲一朗監督
――標高1000メートル級の山々と断崖絶壁の峡谷で1年間、35ミリフィルムでの撮影を通して訴えたかったのは何ですか。
「少し大きく言うと、自然と人間の共生です。祖谷には現代人が失いつつある日本の起源、原風景があると思ったんです。シンプルだけど力強い人間の営みに瞠目(どうもく)していただきたいし、何よりも演者さんの後ろで流れる景色、デジタル映像では表せないぬくもり、風の動きまで感じられる情景を伝えられたらうれしいですね」
――映画監督として狙うのは、全国制覇ならぬ大ヒットですね。
「仲間と映画製作会社を立ち上げましたが、映画で食えているわけではありません。ルームシェアしながら、日雇いアルバイトをして食いつないでいるのが現状で、映画監督としてやっていけるかどうかもわかりません。でも、もっと技術を磨いて、勉強して、撮りたい映画を撮っていきたい。祖父も題材に? ええ、祖父を傍らで見続けてきた祖母の蔦キミ子を主体にしたいですね。祖父のいい面も悪い面も描きやすいですし、誇張や美化された姿ではなく、人間くさい祖父を描けるんじゃないかと思うのです」