黒木亮(作家)
3月×日 取材を兼ね、マダガスカルのそばに浮かぶ島国、モーリシャスを訪れる。夏の雨季で気温は30度超。アフリカの国だが、住民の3分の2はインド系で、4分の1はクレオール(現地生まれの欧米人およびその混血)。尖った山々とココヤシの木々の風景がポリネシアにいるよう。
山崎雅弘著「底が抜けた国」(朝日新聞出版 957円)を読む。日本政府のさまざまな欺瞞と詭弁を正攻法の論理で剔抉(てっけつ)した本。目を醒まされ、喝を入れられる思い。
3月×日 首都ポートルイスの中央市場や街の様子を取材。市場では長さ4センチほどの細長い黒ブドウが売られていた。種なしで甘い。人口の3%に過ぎない中国系が商業を牛耳っており、首都の通りは中国語の看板だらけ。マクドナルドがあったので、ビッグマックの値段を見ると、180モーリシャス・ルピー(約670円)で、日本の480円より高い。ここでも円安の悲哀を味わう。
ヴィクトリア・ヒスロップ著「封印の島 上・下」(中村妙子訳 みすず書房 上巻3080円、下巻2860円)を読む。かつてハンセン病患者を隔離したギリシャのスピナロンガ島を舞台にした家族の物語で、英国でベストセラーになった作品。ハンセン病によって家族と引き裂かれながらも、悲しみを乗り越え、前向きに生きる人々の姿が圧巻。ここ数年で読んだ小説の中ではぴかいち。
3月×日 島の南部にある茶畑と茶の工場を見学する。英国植民地時代の1892年、英国人がセイロン(現スリランカ)から茶を持ち込んで作ったプランテーション。茶畑で、現地の労働者たちが一列になって茶摘みをしている風景が日本にそっくりで、心が癒される。
本橋信宏著「東京最後の異界 鶯谷」(宝島社 858円)を読む。案に相違して、なかなか硬派な内容。風俗嬢を蔑視するブント(安保闘争や成田空港反対闘争を行った共産主義者同盟)の元代表に、著者が突っ込む下りが面白い。