映画「海よりもまだ深く」の是枝監督 ロケ地と家族を語る
(旭が丘)団地での撮影では、友達のお父さんやお母さんがみんな「コレちゃん」と言って集まってきまして。昔、プールに連れて行ってくれたお父さんたちが80歳以上になって、そこに一人で暮らしているのは不思議な感覚でした。
大人になって、最初は仕事がキツかったのもあって母親は「安定した仕事に就いて、とにかく堅実に生きろ」「地方公務員に」と反対していました。でも、映画を撮るようになってからは逆に一番のファンになってくれました。母親って、生きているときはホント面倒くさいし、うるさいし、しつこい。でも、だんだん老いていくのを見るのは切ない。かといって一緒に暮らせない。「厄介だけど、かけがえのない」というのは家族を描くうえで気にかけていて、両方を描かないといけない。
■「実話もあるけど、あくまでフィクョン」
あんな団地だったとはいえ「帰る場所がなくなる」とザワつくんです。「実家がなくなる」というのは、そんなに自分の中で大きかったんだと。めったに帰らないのに、なくなって初めて気付きました。だから、子供ができて自分が父親になり嫁さんが母親になったとき、少し安心したんです。家族はそうやって乗り合いバスみたいに役割分担が変わりながら、新陳代謝を繰り返しながら受け渡されるんだなと。頭で分かっていても、なって初めて自分が「鎖」のひとつになっていると分かりました。「歩いても 歩いても」(08年公開)のときはまだ僕に子供がいなくて、阿部さんは独身。今回は僕も阿部さんも父親。作品や役者の方も自分と一緒に年をとっていけるのはうれしいですね。