歌舞伎座で初主演 香川照之が挑んだ“ニヒリズム親子劇”
香川照之が、歌舞伎界に入り市川中車を襲名したのは12年6月だったから、5年が過ぎた。この間、幹部役者たちは中車とほとんど共演しなかったが、市川海老蔵と坂東玉三郎が積極的に相手役に起用したおかげで、ついに歌舞伎座で主役をつとめるまでになった。今月は玉三郎を相手に、長谷川伸の「瞼の母」で主役である。
中車演じる博徒の忠太郎は幼い時に母と生き別れた。ある日、母らしき女性がいることを知り、会いに行く。その女性が玉三郎演じる料理茶屋の女主人、おはま。忠太郎は自分の名前と生い立ちを説明し、あなたは母ではないかと迫る。おはまは自分に忠太郎という子がいたことは認めるが、その子は死んだ、おまえは私の子ではないと言い放つ。忠太郎がカネ目当てで会いに来たと勘ぐっているのだ。
結局、おはまが認めないので忠太郎は引き揚げる。だが、その後おはまは娘に説得され改心し、忠太郎を追う。その母の姿を見ながらも、忠太郎はもう会おうとしない。
この芝居は作者の長谷川伸の実体験をベースにしている。彼も3歳のときに母と生き別れ、50歳で再会した。そして演じる中車もまた、父と生き別れている。