「ジャージー・ボーイズ」 TOKIOに通じるロック界の堕落論
だけど世の中には落とし穴がある。幸運の女神のほほ笑みを得たはいいが、トミーという粗野で支配欲の強い男をリーダーにしたせいで転落する展開は実話だけに観客の胸に迫る。実話といえば、72年に「女のみち」で空前のヒットを飛ばした「ぴんからトリオ」。その後「ぴんから兄弟」に分裂した原因は金銭問題とも言われた。
昔から、きょうだいが3人いたら1人はろくでなしになるといわれる。赤の他人が集まればなおさらのこと。トミーも山口も堕落し、道を踏み外した。
坂口安吾は人間は堕落する生き物だとし、「義士も聖女も堕落する」と断じた。義士は赤穂浪士のことで、こう続く。
「昔、四十七士の助命を排して処刑を断行した理由の一つは、彼らが生きながらえて生き恥をさらし、せっかくの名を汚す者が現れてはいけないという老婆心であったそうな」(「堕落論」)
切腹は正しい判断だったといえるかもしれない。
(森田健司)