勘三郎なきコクーン歌舞伎 役者も脚本もいいが熱狂消えた
今年のコクーン歌舞伎は「切られの与三」。女形の中村七之助(35)が与三郎を演じ、コクーン歌舞伎初出演の中村梅枝がお富という配役。瀬川如皐の「与話情浮名横櫛」を、「木ノ下歌舞伎」を主宰する木ノ下裕一が大胆に脚色しており、実質的には新作といっていい。
原作は長い芝居で、全部が上演されることはない。与三郎とお富が出会う場面と、「しがねえ恋の情けが仇」のせりふが有名な再会の場面だけが頻繁に上演されるが、今回は再会後の二転三転する物語までが上演される。
ストーリーは面白いし、役者もいい。しかし、劇場にはかつてのコクーン歌舞伎にあった熱狂はない。「クール歌舞伎」とでも呼べばいいのだろうか。熱狂すればいいわけではないから、冷たさが狙いだというなら、それはそれでいいのだが。
演出・美術は串田和美。コクーン歌舞伎は、古典をいったん壊して再解釈して提示するのをコンセプトとして始まった。勘三郎がいた頃は、串田が壊そうとするのに勘三郎が抵抗し、そのぶつかり合いがエネルギーとなって傑作を生んできた。勘三郎亡き後は、若い作家を起用し、串田と歌舞伎役者との三つ巴から何かを生み出そうとしているようだ。