放つ言葉の重みと軽み…演技を超えた演技女優「樹木希林」
樹木希林さんが亡くなって、まもなく1週間が経つ。この間の報道の大きさに圧倒された。彼女が全く稀有な俳優だということが、広く認識されていたからだろう。美人女優として主役を張る映画やテレビの王道を歩んだ人ではない。演技の深化によって脇から主役クラスへ向かった俳優とも違う。希林スタイルとでもいうしかない独自の俳優人生が、多くの人たちを魅了したのだろう。
若い時分からの軽妙でユーモア感覚あふれる個性派が、いつの頃か、ある独特の境地に足を踏み入れていった。ときにアドリブにも感じられる軽口や意味深長なセリフ回しが、彼女の生活空間の要所からつむぎ出されたかのようで、それが自然体にも見える演技につながった。彼女が放つ言葉の重みと軽み。演技を超えた演技ともいえる。
その自然体が家族劇のなかで一層輝いた。是枝裕和監督の「歩いても 歩いても」(2008年)や「海よりもまだ深く」(16年)では、母として祖母として、家族の全体像をときに見守り、ときに突き放したりする。昭和を引きずる「良妻賢母」型ではないが、存在感が圧倒的なのだ。河瀬直美監督の「あん」(15年)では、産めなかった息子の姿を借金まみれの男に重ね合わせ、彼の仕事を助けることになる。「あん」は家族劇ではないが家族を求める話でもあった。