ビートたけし「浅草キッド」で歌った店の大将は芸人だった
「♪おまえと会った仲見世の、煮込みしかないくじら屋で~」
ビートたけしが「浅草キッド」の中で歌った店が浅草六区通りにある居酒屋「捕鯨舩」だ。その店内は、壁という壁に、訪れた芸能人やスポーツ選手のサインが書かれている。テレビ番組の企画で数えたところ、その数、約1300。
店主の河野通夫氏(73)は、多くの芸人から慕われる浅草の有名人だ。そんな河野氏が、浅草芸人のとっておきのエピソードを披露する。
河野氏自身、かつては伝説の芸人が主宰する劇団の喜劇役者だったのだ――。
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「俺が浅草だァ」なんて言ってるけど、もともとは俺、名古屋の出なんだよな(笑い)。でも浅草に来て50年、誰よりもこの町を愛し、この町のことを考えてやってきたつもりだよ。
中学卒業後、俺は地元の森永乳業に就職して、定時制高校に通ってたんだ。でも学歴社会でさ。こっちは誰よりも仕事を一生懸命やってるのに、バカ野郎、大卒のやつばかりが偉くなっていきやがる。それで嫌気がさしてさ。もともと芸事が好きだったってのもあって、東京の俳優の養成所を受けたんだ。そしたら「あなたは受験者1000人のうち、11番目です」って言うじゃねえか。1年間頑張れば、東映、松竹、東宝なんかのニューフェースにしてくれるっていうから、一念発起して汽車に乗って上京して来たんだよ。