第15回日本アカデミー賞最優秀作品賞「息子」は父親の物語
息子(1991年 山田洋次監督)
東京の居酒屋で目標もなく働く哲夫(永瀬正敏)は母の一周忌で岩手に帰省。長男夫婦は一人暮らしの老父・昭男(三国連太郎)を引き取るべきかを議論し、哲夫は父に生き方を批判されてふてくされる。哲夫は帰京し、鉄工所でバイトを開始。取引先の倉庫番をしている征子(和久井映見)に好意を抱き、ラブレターを渡す。実は征子は聴覚障害者。そのことを知った哲夫は思いが募るばかりだ。
そんな折、父の昭男が上京。千葉に住む長男のマンションに泊まったあと哲夫の安アパートを訪ねる。旅疲れでまどろんだ父が目を覚ますと、哲夫の隣で征子がほほ笑んでいた……。
長男夫婦としっくりいかなかった父が次男のアパートで美しい恋人に心のぬくもりを感じる。「東京物語」のような展開だ。音楽も素晴らしい。筆者は本作の観賞後はいつも雑音を消して余韻に浸ることにしている。
征子は野菊のようにけなげに生きる女性。哲夫は彼女と結婚したいと告げる。父は征子に「本当に息子の嫁御になってくれますか?」と尋ね、手話を交えた彼女の答えに感謝を表す。