第15回日本アカデミー賞最優秀作品賞「息子」は父親の物語

公開日: 更新日:

 哲夫は都会の片隅で、かよわい征子を支えて生きるつもりだ。決意は固い。不甲斐ない息子はいつの間にか優しくたくましい男になっていた。我が子の成長を知った父は喜びで寝つけない。夜中に息子を起こし、ねじり鉢巻きで「お富さん」を歌う。「あの子を岩手に呼んでお披露目せねばならんなぁ」という父は宝石のような嫁を近所に自慢したいのだろう。その一方でハンディのある女性を伴侶に選んだ我が子を誇らしく思ってもいるはずだ。

 征子と連絡をとるために父はファクシミリを持って岩手に戻り、近所の者に「幸せだ」と言う。雪に覆われた一人住まいの家に明かりがともるラストは、間もなく訪れる征子のお披露目の宴を暗示していると解釈してもいい。

 長男の妻に「人知れず死んでもかまわない」と言いきった父は、征子が孫を産んだら面倒を見なければならないと笑う。生きる張り合いを得た父はまだまだ死ぬわけにはいかない。

(森田健司/日刊ゲンダイ)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動