「星をかすめる風」韓国の国民的詩人をめぐるミステリー
2つの顔を持つ杉山。そして尹。2人の間に横たわる底知れぬ闇とは……。
まるで上質なミステリーを読んでいるかのようで、「犯人探し」の興趣に的を絞っても超一級の出来栄えだ。しかし本作の主眼は「たとえそれが恥ずかしい歴史であっても、なかったことにしてはいけない」という渡辺の戦争犯罪への真摯な向き合い方だ。
「戦争の狂気に沈黙し、罪のない者の悲鳴に耳をふさいだ罪が自分にもある」
このセリフは今話題の映画「オフィシャル・シークレット」の中で国家のウソを告発した主人公と、彼女に対しうしろめたさを持つ同僚のやりとりと重なる。
ミステリアスで残酷な物語であると同時に詩的な「美しい舞台」でもある。
脚本・演出は劇団温泉ドラゴンのシライケイタ。青年劇場とは初のタッグだが、俳優たちがまるで水を得た魚のように生き生きと躍動した。コロナ禍で逼塞(ひっそく)していたことへの解放感もあるだろうが、“あったことをなかったことにして恥じない”安倍政権7年余の政治への怒りもあるに違いない。
休憩挟んで2時間20分。紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで20日まで(配信もあり)。
★★★★★