「人間合格」太宰治の半生から節操なき“戦後日本人”を描く
こまつ座「人間合格」
若き日の太宰治に焦点を当てた井上ひさし作の評伝劇。
津島修治(太宰治=青柳翔)は、帝大入学のため青森から上京、学生下宿で貧乏学生の佐藤浩蔵(塚原大助)、山田定一(伊達暁)と出会い、たちまち意気投合。左翼運動に共鳴し、風呂敷を幕に使った「フロシキ劇場」なる大衆啓蒙演劇を始める。
しかし、プロレタリア運動への当局の弾圧は激しくやがて彼らの運動も終息。山田は役者に味をしめ演劇に進み、佐藤は運動を捨てきれず地下活動に。そして修治は文学へと歩み出す。
3人はこの後、事あるごとに人生の節目で再会し、互いの生き方を認め合う。
冒頭に舞台背景に大写しされる赤ん坊の修治、学生時代の修治、薬物中毒で入院生活を送る修治など6葉の写真を足がかりに、太宰の半生を追っていく。
太宰文学の「憂鬱」は何から起因するのか。井上は太宰が黙して語らなかったという学生時代の左翼運動と挫折に光を当て太宰文学を検証する。
社会主義運動に傾倒するものの、津軽の大地主の出自という修治の矛盾。その葛藤を突くのは、津島家から派遣され、修治につきまとう中北芳吉(益城孝次郎)という番頭。彼は修治に運動から手を引くよう進言し、修治の矛盾を指摘する。「大地主の息子が社会主義運動をするとは何たること」と。