劇団俳優座「インク」 大衆の欲望と新聞の倫理の相克を鮮烈に活写
1969年のロンドン・フリート街(新聞街)を舞台に、発行部数をめぐる新聞社間の熾烈な闘いを描いたもの。大衆の欲望とメディアの倫理という極めて今日的な問題を描いたジェイムズ・グレアムの作品(翻訳=小田島恒志、演出=真鍋卓嗣)。
世界が激動する69年。部数低迷に喘ぐ「ザ・サン」を買収したオーストラリアの新聞社主ルパート・マードック(千賀功嗣)は他紙で腐っていたラリー・ラム(志村史人)を編集長に迎え、待遇に不満を持つ編集者をヘッドハンティングし、新しい新聞づくりを提唱する。それはインテリ向けの高級紙ではなく、労働者階級が読む娯楽紙だ。
ターゲットは400万部という世界最大部数を誇る「デーリー・ミラー」。むろん、ミラーの編集長ヒュー・カドリック(加藤佳男)は意に介さない。
舞台は、創刊までの新スタッフの葛藤や割り付け、校正、製版など新聞の工程を描く第1部、斬新な企画で「ミラー」を追い詰める第2部、そして勝敗の結末が明らかになる第3部で構成。
もちろん、単純な成功譚ではない。ある血なまぐさい事件の当事者になってしまった「サン」がそれをも部数拡大に利用する非情さをも活写する。