劇団俳優座「インク」 大衆の欲望と新聞の倫理の相克を鮮烈に活写
報道の要、5W1Hのひとつ「WHY」は「なぜ」ではなく「次はどうなるのか」と大衆の興味におもねる「ストーリー」のための文字になっていく。
マードックを演じた千賀は長身で押しが強くメディア界の寵児(ちょうじ)にぴったりの風貌。対するラムの志村はジャーナリストとしての誠実さと矜持(きょうじ)を保ちながら、部数拡大という魔物に翻弄される男を好演した。
短い場面の積み重ねによるスピーディーな展開、野卑なセリフ、女優の煽情的な場面……それは劇中で「ページを繰るたびに読者の眠気を誘うような記事ではなく、読者の横っ面を引っぱたいて目を覚まさせるようなワクワクドキドキする紙面づくりを目指す」というマードックのセリフと呼応するかのようにスリリングで刺激的な舞台となった。
「サン」を一躍有名にしたのは「ページ3ガール」と呼ばれるトップレスの女。女性のヌードはメディアの良識への挑戦だったが、大衆の欲望はサンを支持した。やがてサンの「ページ3」は世界のタブロイド紙のひな形になっていく。
映像を効果的に使い、歯切れのいい真鍋演出。休憩2回挟んで3時間の長丁場もまったく飽きさせず、魅力的な舞台になった。27日まで。六本木・俳優座5階稽古場。★★★★★