<63>家政婦のドラ子は野崎社長に「2億円を貸して欲しい」と懇願した
かんぽの宿の1階フロントの奥の個室宴会場に顔を出すと時間前なのか皆は揃っていなかった。野崎幸助さんは椅子に腰掛けて、料理を並べる係員を見ていたが、早貴被告はいなかった。
私は社長とかなり親しくさせてもらっていて、彼の性格もよく知っていたが、凄いと思ったのは約束の時間の少なくとも30分も前に姿を現すことで、1時間前のこともあった。
約束の時間まで何もせずに黙って座っているのだ。私だったら新聞を読んだり本を読んだりするだろう。今の若者ならスマホをのぞいているだろうが、社長はただただ座っているだけだ。
「退屈じゃないんですか?」
聞いたことがある。
「いやいや、いろんなことを考えたり、思い出したりしているんで退屈じゃありませんよ」
「べっぴんさんのことを考えているんじゃあないですか?」
ちゃかしたが、約束の時間よりもかなり前に行くというのは彼の習慣であり、マコやんも「もう行くんですか?」と社長の時間前の動きに慌てていたことも珍しくはなかった。=つづく