<76>最愛のチロは22年生きて、桃の節句の日に骨になった
チロちゃんが亡くなったのは3月2日。翌日の3月3日の桃の節句の日に見送ったんだよ。チロの棺を桃の花で飾ってね。チロは22年も生きて、人間の歳で言ったら100歳を超えてたから大往生だったんだけどね。長寿の猫だって、世田谷区から賞状をもらったこともあったんだよ(荒木の愛猫チロは2010年3月2日に息を引き取った。チロとの出会いから別れまでを連載21~25に掲載)。
■入院なんかさせなきゃよかった
医者には、死因は腎不全だって言われたね。2月の終わりごろから急に調子が悪くなって、モノを食べられなくなって、ガリガリに痩せちゃった。チロを抱っこして病院に連れて行って、入院したほうがいいって医者に言われたから置いてきたんだけどさ、3日後に連れて帰ってきたんだ。だって、狭いケージの中で死なすのはイヤだからね。ずっと、悔やんでいたよ、最後の3日間、病院に入院させたことをね。入院なんかさせなきゃよかった、ずっと一緒にいてあげればよかったってね。陽子が亡くなったときも、チロはずっとそばにいてくれた。そばにいてくれれば、それだけでいいんだよ。
3月3日にチロの骨を焼いたんだ。ペットの共同墓地みたいなのがあって、「お土戻し」って言うらしいけど、チロの遺骨を土に戻してあげたんだ。チロの骨、やっぱり動物なんだね、手で持って触ったら、粉々になってね…。脆くて、びっくりした。
影の中に真実があるかもしれないね
これは、チロちゃんの影。今、写真やってる人たちは影を撮ってないよね、影が写ってない。影が主役なんだよ。影が本当の姿だっていうね。影のほうが本当、影の中に真実っていうと変だけどさ、そういうことがあるかもしれないね。
この影、あとで気がついたけどね、陽子が死んで、降り積もった雪の中にチロちゃんが出て行ったときの形と同じなんだよ。チロが雪のバルコニーにパーっと飛び出して、オレのことを勇気づけるために、雪の中で飛び跳ねてくれたんだ。『センチメンタルな旅・冬の旅』(1991年刊)のラストシーンのチロね(連載42に掲載)。不思議なんだよ。
(構成=内田真由美)