著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<22>チロは陽子が亡くなった後、オレを励ましてくれた

公開日: 更新日:

 猫は臭いから嫌いだって言ってたのに、4ヶ月の子猫だったチロがウチに来て、ネコロリコロリって、オレはすぐにまいっちゃったんだよね(笑)。チロは、バルコニーから隣の柿の木に飛び移ったり、家の屋根に登ったり元気なチビで、高いとこに登ると得意気にポーズをとるんだよ。扉や冷蔵庫の上に乗ったり、カーテンに飛びついたり。おもしろいのはね、褒めると得意になって、写真を撮らないと、同じポーズでずっと待ってるの。わかるんだね。

 チロちゃんがウチに帰ってこなかったことがあってね。陽子と一日中、捜しまわってさ、チロ、チロって呼んで。真夜中も捜しに行ったけど、どこにもいないんだ。バルコニーを何度も見たけど、帰ってきてなくてね。チロが帰ってきた夢を見て、飛び起きてバルコニーを見たけどいない、どこ行ったんだよ~って、そしたら鈴の音がしてね、振り返ったらチロがいた。いなくなって3日目に帰ってきたんだけどね、陽子はチロを抱きしめて、泣いてたね。

ず~っと、一緒に“時”を過ごしたという感じ

 オレの脚の上にチロが乗って、陽子が寄りかかっている写真があるだろ。オレと陽子とチロ、3人がテレビを観てる写真なんだ。チロは猫なんだけど、そうじゃないんだよね。チロとは、ず~っと、一緒に“時”を過ごしたという感じなんだよ。

 陽子はさ、『愛しのチロ』ができるのを楽しみにしてたんだけど、間に合わなくてね。陽子の棺の中に出来上がったばかりの『愛しのチロ』を入れたんだ(1988年に陽子の実家からもらわれてきた愛猫チロとの日々の記録。この写真集の制作中に陽子が入院、手術をすることになり、楽しみにしていた写真集を目にすることなく1990年、子宮肉腫のため旅立った)。

長寿で世田谷区から賞状をもらった!

 陽子が入院している間、オレが病院に見舞いに行って帰ってくるだろ。シ~ンとしている。音もない。気持ちもそうだしさ、そうするとね、チロが家の中を走り回ってくれたりしたね。陽子が亡くなったときもそうだった。雪の多い年でさ、ずっと家にこもってたんだけど、チロがバルコニーにパーッて走って出てって、雪の中を跳ねたんだよね。飛び跳ねて、オレを励ましてくれた。『センチメンタルな旅・冬の旅』(1991年刊)のラストシーンの写真ね。シッポをピンと立てて、勃起してるみたいなんだよ。

 陽子が亡くなった後、オレに寄り添って、励ましてくれたのがチロ。そのチロもね、逝っちゃった(2010年3月2日)。

 チロは22歳でさ、人間だと100歳を超えてて、長寿の猫だって、世田谷区から賞状をもらったこともあるんだよ。

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    松本人志「事実無根」から一転、提訴取り下げの背景…黒塗りされた“大物タレント”を守るため?

  2. 2

    島田洋七が松本人志復帰説を一蹴…「視聴者は笑えない」「“天才”と周囲が持ち上げすぎ」と苦言

  3. 3

    人気作の続編「民王R」「トラベルナース」が明暗を分けたワケ…テレ朝の“続編戦略”は1勝1敗

  4. 4

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  5. 5

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  1. 6

    松本人志が文春訴訟取り下げで失った「大切なもの」…焦点は復帰時期や謝罪会見ではない

  2. 7

    窪田正孝の人気を食っちゃった? NHK「宙わたる教室」金髪の小林虎之介が《心に刺さる》ファン増殖中

  3. 8

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  4. 9

    菊川怜が選んだのはトロフィーワイフより母親…離婚で玉の輿7年半にピリオド、芸能界に返り咲き

  5. 10

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇