はるな愛さんはLGBTのアイコンに「相手を知ろうとすれば性別だけではおさまらない」

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はるな愛(タレント)

 昨年は東京パラリンピックの開会式に登場し、世間をアッと驚かせた。松浦亜弥のものまね「エアあやや」などでブレークし、“おネエタレント”として一斉を風靡。現在はLGBTのアイコン的存在として多様性に関する講演や子供の食の貧困を支援する「こども食堂」に携わるなど精力的に活動している。「多様性を受け入れるとは“気づき”にその都度対応すること」と語る真意はーー。

  ◇  ◇  ◇

 ──パラリンピックの開会式に登場したときにはネットでトレンドワード1位になるほど話題に。

 49歳で世界のステージに立てたことは何よりうれしかったです。LINEに今までにないほどの連絡が来て。東野幸治さんは「あらびき芸人でかした!」と愛のあるメッセージをくださいました。

 ──開会式を通じ、多様性について身をもって体験することも多かったそうですね。

 一緒に出演した仲良しのジェーンちゃんは先天的に背の低い女性で、「ちっちゃいから見えない!」と自分の身体的特徴を笑いにするような、とっても明るいムードメーカーでした。ある日、香盤表(進行スケジュール表)が張り出されると、ジェーンちゃんが椅子の上に乗ってそれを見ていたのです。私は「ごめん、気がつかなくて」と彼女も見られるように、香盤表を下げて張り直しました。開会式メンバーとしてこれだけ一緒にいても気づかないことはあります。その都度、みんなにとってベターな方法を見つけて解決することが大切なんだと気づきました。

 ──中でも印象に残った一言があるとか。

 当日、演出の方から「みんな違って、みんないい、ということを世界に伝えてください」とイヤホン越しに言われて、本番前に涙があふれたのですが、ジェーンちゃんが「でも、みんな一緒がもっといい!」って言ったんです。その言葉に感動して、そうだよねってしみじみ思いました。私も、パラのオーディションの面接で「オリンピックとパラリンピックを分けないときが来ることを願っている」とお話ししたのですが、まさに同じで。みんなが一緒になることがゴールなんじゃないでしょうか。

本名「大西賢示」は変えない

 ──世の中のLGBTについての考え方も進化している。

 私が“エアあやや”でお茶の間に出た頃は「おネエ」っていう言い方がわかりやすくまとめた言葉でしたが、今は「LGBT」になり、さらに「Q」や「X」などの文字が加わってきています。私の場合はT(トランスジェンダー)に当たると思うのですが、同じTでもそれぞれ違う。私は過去の経験全てを含めて今があると思っているので、本名の「大西賢示」という名前を変えることは考えていません。デートしているときに「賢示!」って言われるのは困ることもありますけど(笑)。友達の中には性別適合手術を受けて女性になって、女性として女性を愛する人もいますし、男性から女性になっても恋愛をしたくない、華やかな場所に出たくないという人もいて、本当にさまざま。人の数だけ頭文字があるんじゃないでしょうか。「ミスインターナショナルクイーン」に参加したとき、出場していた子が、周りのクイーンたちを見て泣き出したんです。「私の国ではこんなに自由にいられない」って。世界にはまだまだLGBTでつらい思いをしている人たちがいて、今は過渡期ではあるんだなと思うと同時に、私も世界に出て発信していかなきゃと痛感しています。

■傷つくのはみんなと同じ、ただそれだけ

 ──最近はLGBTに関する講演活動も増えている。

 LGBTはあくまで個性を知るきっかけで、相手を知ろうとすればするほど、性別だけではおさまらなくなり、多様性につながります。隣にいる人がどんな人なのか、どんなサポートができるのか、まずは相手を知ることが大事。よく講演会で「どうされたら傷つくのか」と聞かれますが、みんな同じです。みんなが言われたら悲しいことに傷つく、ただそれだけです。相手のことを理解し、関係性が成り立ったうえでの“愛あるイジリ”なら傷つきません。

 ──最近のテレビには違和感を覚えているそうで。

 今のテレビはコンプライアンスばかり気にしているように感じてしまいます。表現する側のアップデートも必要ですが、単に言葉だけを禁じるのはちょっと違うかなと……。テレビ自体がどうあるべきか迷っているようにも思います。私は大阪で吉本新喜劇を見て育っているので、小柄な池乃めだか師匠の「今日はこれぐらいにしといたるわ!」と言って帰る“ちっちゃいおっさんネタ”が大好きでした。新喜劇が批判されず、素直に笑えるのは、見る側との関係性ができているからだと思うんですよね。言葉の制限よりも、お互いの個性を受け入れて関係性をつくることが本当に必要なことなんじゃないでしょうか。そして、私の芸風で笑って楽しんでもらえる環境になったときこそ、多様性が認められたと言えるんじゃないかな。

 ──「子供の食の支援活動」もライフワークにしている。

 ラジオに出演したとき「こども食堂」の活動をしている「むすびえ」代表の湯浅誠さんとお話しして、100円で何でも買えるような時代にご飯を食べられず居場所がない子供がいることを知り、「私でもできることがあれば」と手を挙げました。経営している飲食店で地域の子供たちに食事と居場所を提供する活動に参加して4年になります。コロナ禍になって、ウチの店では開催が難しくなりましたけど、経営している別のたこ焼き店で、たこの絵を描いてくれた子にたこ焼きをプレゼントしています。今後もできる限りの支援を続けたいと思っています。

 ──9月には歌のライブも開催する。

 東日本大震災で被災地にお邪魔したとき、仮設住宅の集会所のカラオケセットで歌わせていただいたら、皆さんが喜んでくれて、笑顔になってくれました。テレビに映るアイドルに生きる力をもらい、テレビを見ている時間だけが生きづらさや現実を忘れることができた頃を思い出しました。子供の頃、父が私に演歌歌手になってほしかったこともあり、演歌を習い、プロとして曲も出しているのですが、もっと本気で取り組もうと思いまして。自分で場所を押さえて、9月30日に東京のラドンナ原宿でライブをやることにしました。

 ──今後のビジョンは?

 今この時代に生きる意味、エンタメという仕事をさせてもらっている意味を胸に、これからも自分なりの表現をしていきたいです。世界のエンタメで挑戦したいし、(2025年開催予定の)大阪万博など、まだまだ大きなステージに出たいと思っています。

 ──プライベートは?

 パートナーと人生を共に、家族として歩めたらいいですね。ステップファミリーも含め、いろんな家族の形があっていいと思いますし、普通に「はるな愛、結婚したんやー」と祝福してもらえるような世の中になったらもっといいですね。

(聞き手=岩渕景子/日刊ゲンダイ

▽はるな愛(はるな・あい) 1972年、大阪府出身。本名は大西賢示。2007年に松浦亜弥のものまね「エアあやや」で注目され、おネエブームを牽引。09年「ミスインターナショナルクイーン2009」で優勝、口癖の「言うよね~」が流行語に。21年8月、東京パラリンピック開会式でパフォーマンスを披露。現在は芸能活動の傍ら、多様性、子供の貧困など社会貢献活動にも取り組んでいる。

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