円丈師匠は新作落語“不遇の時代”でも格別だった…「グリコ少年」や「悲しみは埼玉に向けて」が大受け
小ゑんの十八番「ぐつぐつ」は、おでんの種がしゃべる擬人法の噺である。イカ巻きのゲソとタコの足が、「俺たちはイボ(異母)兄弟」などという秀逸なくすぐりが満載だ。
「40年前の寄席は、まだ根強い新作落語差別がありました。古典落語しか認めないお客が多くて、おでんがしゃべり出したとたん、『なんだ?』という感じで、客が引いていくのがわかった。楽屋にも新作を下に見る落語家がいて、『新作の後はやりづらい』なんて言われたもんです。そんな状況でも、円丈師匠は別格でした。『グリコ少年』や『悲しみは埼玉に向けて』は寄席でも受けて、新作をやり通した。今僕らは、その恩恵にあずかっているわけです」
■<応用落語の会〉を立ち上げ
1986年に<実験落語の会>を解散した円丈は、1991年に<応用落語の会〉を立ち上げる。小ゑんはこれにも参加した。
「応用落語というのは僕が付けたんです。実験の次の段階が応用ということで。この会には(春風亭)昇太、(三遊亭)白鳥、(柳家)喬太郎、(林家)彦いちなどの若手が参加して、ガンガンきてましたから、刺激になりましたね。新作グループには寄席の上下関係とは違うものがありました。円丈師匠の落語を客席で聴いてもよかったんです。寄席ではタブーですが。その上で師匠は僕たちにアドバイスを求めた。お互いの作品を、『こうしたらもっと面白くなる』と論評し合ってました。ありがたかったですね」