出世作を生んだ三遊亭円丈の言葉 「君は君以外になれない」と言われ目が覚めた

公開日: 更新日:

「君は何をやりたいの?」と聞かれ…

「二つ目になりたての頃、『君は何をやりたいの?』と聞かれました。いろいろ話すうちに、新作の作り方を一から教えてもらい、『君の世界を落語にしていけばいい』と言われました。ノンフィクションが面白いのだから、無理にオチを付けなくていい。純粋に感じたことをそのまま語ればいいんだと。目が覚めましたね」

 彦いちが2006年に刊行した著作「いただき人生訓」に、円丈の言葉が載っている。

「はい。『君は君以外になれないんだ。君になればいいんだ』ですね。哲学的ですが、自分の感性を生かせばいいと理解しました」

 それから彦いちの高座が俄然面白くなった。「スケッチネタ」と言われる、実際に見聞きしたことをしゃべると、大きな笑いが起こったのだ。

「今もよく演じてる『睨み合い』という噺も、実際に見聞きしたことです。京浜東北線が鉄橋の上で急停車して、事故でしばらく動けないというアナウンスが流れる。その時、同じ車両に乗っていた人々の様子を描写して一席にしたものです」

 この噺は彦いちの出世作になった。2000年、NHKの新人演芸大賞に出場した際、この噺を演じて、落語部門の大賞を受賞したのだ。

「新作で受賞したことに意味がありました。この種のコンクールは圧倒的に古典落語が有利なんです。僕の前後に受賞した方は古典派ばかりで、昨年、立川吉笑さんが新作で大賞を取ったのは久しぶりじゃないでしょうか。あの受賞で自信が付いたのは確かです。円丈師匠の<応用落語>で、昇太、白鳥、喬太郎といった先輩方と一緒に、ネタ下ろしを掛けてたことも刺激になったんでしょう」

 その連中がそっくりそのまま、現在のSWA(創作話芸アソシエーション)のメンバーになったわけだ。

「ただ、寄席ではまだまだ新作が認められていない時代でした。新作で通せたのは、師匠の木久扇と円丈師匠くらいで、僕ら若手はできませんでした。新作をやり出すとお客さまが引きますし、楽屋の先輩方にも、『新作の後はやりづらい』なんて言う方がけっこういましたから」 (つづく)

(聞き手・吉川潮)

■SWAクリエイティブツアー公演(27日から30日まで新宿シアタートップス) ※出演=林家彦いち、三遊亭白鳥、春風亭昇太、柳家喬太郎。当日券あり。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  2. 2

    中居正広の騒動拡大で木村拓哉ファンから聞こえるホンネ…「キムタクと他の4人、大きな差が付いたねぇ」などの声相次ぐ

  3. 3

    木村拓哉は《SMAPで一番まとも》中居正広の大炎上と年末年始特番での好印象で評価逆転

  4. 4

    中居謝罪も“アテンド疑惑”フジテレビに苦情殺到…「会見すべき」視聴者の声に同社の回答は?

  5. 5

    中居正広9000万円女性トラブル“上納疑惑”否定できず…視聴者を置き去りにするフジテレビの大罪

  1. 6

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  2. 7

    フジテレビは中居正広で“緊急事態”に…清野菜名“月9”初主演作はNHKのノンフィクション番組が「渡りに船」になりそう

  3. 8

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  4. 9

    若林志穂vs長渕剛の対立で最も目についたのは「意味不明」「わからない」という感想だった

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    相撲協会の逆鱗に触れた白鵬のメディア工作…イジメ黙認と隠蔽、変わらぬ傲慢ぶりの波紋と今後

  2. 2

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    《2025年に日本を出ます》…團十郎&占い師「突然ですが占ってもいいですか?」で"意味深トーク"の後味の悪さ

  5. 5

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  1. 6

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  2. 7

    結局《何をやってもキムタク》が功を奏した? 中居正広の騒動で最後に笑いそうな木村拓哉と工藤静香

  3. 8

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 9

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 10

    高校サッカーV前橋育英からJ入りゼロのなぜ? 英プレミアの三笘薫が優良モデルケース