市川猿翁、香川照之、藤間紫…ドラマを超えた3人の“運命の糸”
歌舞伎俳優で香川照之の父の市川猿翁さんが83歳で亡くなった。現在、自殺幇助の罪で初公判を待つ4代目市川猿之助の先代であり、香川(市川中車)の歌舞伎界での後ろ盾として扱われることが多かったが、この猿翁さんは大スキャンダルでも“波瀾万丈”と言える生き方をした人だった。
猿翁さんは、3代目猿之助時代に「スーパー歌舞伎」という新しい舞台技術で現代風の新作歌舞伎を生み出した。役者を吊り上げて飛んで見せる「宙乗り」を多用してメジャーにしたのも猿翁さんの発想があったればこそ。彼が「澤瀉屋」をここまで大きく育てたと言ってもいい。
その猿翁さんは23歳で猿之助を襲名した直後に、歌舞伎役者であった祖父と父を相次いで亡くし、誰も守ってくれる人がいない状態となった。ひとりで生き抜くには、挑戦的になって新しい時代をつくり上げなければならなかった。
その一方で、私生活も挑戦的で激しかった。香川の母である浜木綿子(87)と1965年に結婚し、その年に香川が生まれたが、1年ほどで別居して68年には離婚。スピード離婚の理由が不倫で、その不倫相手というのが日本舞踊「藤間流」の宗家・藤間勘十郎の妻で女優の藤間紫さんだった。
紫さんは85年に勘十郎さんとようやく離婚が成立し、2000年になって猿翁と再婚するのだが、当時、猿翁さんが60歳、紫さんがその16歳上の76歳というので世間を騒がせた。紫さんが「ずっと一緒にいた同志のような存在」と言っていたのが懐かしく思い出される。