尾上松也「魚屋宗五郎」は10年の集大成 リーダーとしての資質も確か
「歌舞伎らしい歌舞伎」を見たいなら、今月は浅草公会堂へ行くべきだ。尾上松也、中村隼人、坂東巳之助、坂東新悟、中村米吉、中村歌昇、中村種之助、中村莟玉、中村橋之助ら若手が古典の大役にそれぞれ挑む。10年前から松也がリーダーとなっての座組だったが、今年で最後という。いわば、卒業公演である。
それだけに気合が入り、堂々たる舞台となっている。なかでも特筆すべきは、松也の『魚屋宗五郎』だ。完全に自分のものにしている。メンバー全員が出演し、脇を固めており、本家・菊五郎劇団のアンサンブルに匹敵するくらい、息が合っている。そのまま歌舞伎座で出してもおかしくない。
松也は脇役の子として生まれ、しかもその父を早くに失った、後ろ盾のない俳優だ。同世代の中村勘九郎たちが浅草に出ていたときは2009年と13年にしか出演せず、15年から、リーダーとして正月の浅草歌舞伎を牽引してきた。
松也がこの10年、浅草で若い俳優たちとともに積み上げて築いてきたものが、『魚屋宗五郎』の舞台に集約されている。ひとりの俳優として優れているのではなく、リーダーとしての資質も確かだ。
(作家・中川右介)