榊原るみさんは「男はつらいよ」のマドンナ抜擢が転機に 「山田洋次監督とお茶を飲んでいる間に決まり…」
「男はつらいよ」が話題になったことで「気になる嫁さん」の主役に
なのに、私は芸能界のことを何も知らないので緊張感がなく、ニコニコ笑って現場にいるものですから、みなさん、やさしくしてくれたんでしょうね。おばちゃん役の三崎千恵子さんには「あなた、恵まれてるねえ。最初に山田組で仕事させてもらえて本当に幸せ者だねえ」と声をかけられたのですが、私は「そんなもんかなあ」と思って(笑)。何十年もたってから、言われた意味を理解できました。
同年の10月に連ドラの「気になる嫁さん」の主役に。「男はつらいよ」が話題になったことで決まったと思いますので、ここが私のターニングポイントでした。共演者の石立鉄男さんがこのあと主役になり、ヒットさせていく枠の主役ですから大抜擢ですよね。
ここでも共演者の方たちが佐野周二さんや浦辺粂子さんはじめ、ベテランの方ばかり。みなさんにかわいがっていただきました。
ホームドラマでしたし1年間続いたので雰囲気はピリピリしていませんでしたが、当時は石立鉄男さんが大遅刻をしましてね。彼はその頃から視聴率男と呼ばれていた若いスターですから、遅くまで飲み歩いていたようで、朝からの撮影に現れない。自宅に電話を入れても奥さんが「どこにいるのかわかりません」と。それでみんなして待っているとお昼ごろにフラッと現れる。
気が小さいから、ちょっと遅刻しそうだと現場に来られなくなっちゃうみたい。「みなさん遅れましてすみません!」って言えないんです。でも、行かなきゃいけないから結局はお昼にコソコソ現れる(笑)。そこがおもしろい人ではありました。ベテランの方たちを待たせるのはよくないですが、いい時代で先輩俳優さんも「仕方ないよ、鉄っちゃんだもん」で済ませてましたよ。
根はいい人ですからこんなことも。ある日私がスタジオで40度近い熱が出ちゃったんです。山田吾一さんがボーッとしている私の額に手を当てて「めぐ(役名)、すごい熱だぞ」と声を上げると石立さんが「大変だ!」と近づいてきて、私を抱きかかえて、私の部屋のセットまで運んでベッドに寝かせてくれたんですよ。しばらくしてセットの脇から石立さんたちが「あの子、疲れているから休ませておやりよ」と話している声が聞こえてきて。
私のいないシーンを撮り始めても私はずっとベッドで寝ていました。石立さんはそんな優しい面がある人でした。当時の思い出はつきません。
今は娘(松下恵)と同じ事務所にいて活動しています。私もこの年なので、娘にはマネジャーみたいに面倒も見てもらっています(笑)。親子でたくさん共演できるようにまだまだ頑張ります。
▽榊原るみ(さかきばら・るみ) 1951年3月、東京都生まれ。幼年からモデル活動などを経て「帰ってきたウルトラマン」「気になる嫁さん」などで人気女優に。現在ドラマや映画で活動中。