「R-1」さや香・新山や吉住らベテラン勢はなぜ負けた? 売れっ子は予選で有利、決勝で不利な理由
芸歴3年目の友田オレが優勝
最もおもしろいピン芸人を決める「R-1グランプリ2025」(フジテレビ系)が3月8日に開催された。決勝常連組やベテラン芸人、既に他大会で成績を残している強者たちを抑えて、芸歴3年目の友田オレが王者に輝いた。
今回のR-1グランプリを現役のお笑い芸人はどうみるか。かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もあるという帽子田(仮名)は以下のように考察する。
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売れっ子芸人が並んだ今年の「R-1」
今年のR-1決勝進出者は、お笑い好きから見ると「バランスがよい」という感想だった。若手からベテランまで、漫談や一人コント、映像を使ったものなどネタ幅も広いメンバーが揃っていた。友田オレの優勝は文句なしで、ネタも面白かったし、平場も堂々としていて眩しいくらいだった。
友田オレは今をときめく「早稲田大学お笑い工房LUDO」という学生お笑いサークル出身だ。今後お笑い芸人になりたければ勉強して強豪お笑いサークルがある大学に入る、というルートが正統派になるかもしれない。なにはともあれ、素晴らしい優勝っぷりだった。
僕はもちろんR-1も毎年楽しみにしているが、一般の友人からは「R-1には知っている人が出ないから興味が持てない」との声も聞いたことがある。
だが今回は、テレビでの露出も多いさや香・新山やチャンス大城、決勝常連組ながらも人気の高い吉住もいたので、お笑いファンでなくてもちょっと興味を引かれるようなメンバーだったのではないかと思う。
しかし、ふたを開けるとさや香・新山や吉住などの売れっ子芸人たちの評価が思ったより振るわなかった。僕が思うに、今回は「売れている」ことが最大のデメリットになる大会だった。
さや香・新山、吉住らベテラン勢は不利?
そもそも二人のネタがどうだったのかというと、個人的にはとても面白かったし、他の出場者と比べて明らかに劣っていたということは全然なかった。
ただ、審査員が二人のネタを評価する時に、「想像を超えてこなかった」というようなニュアンスの発言をしていて、残酷な言葉だなと思ってしまった。
すでに売れていて、テレビで普段のネタやキャラクターがばれており、面白いのに「想像を超えない」という理由で評価が下げられるなんて、そりゃ友田オレのように若い初登場の芸人がかなり有利になってしまう。
同じく最近露出が多いチャンス大城さんはネタのイメージがないので、その点で「想像を超えない」という評価にはつながらなかったのだろう。実際「想像もできない」ネタだったというのもある。
「期待を裏切る」ことの難しさ
審査員や視聴者も二人のネタの方向性やキャラクターが分かっているので、「期待を裏切る」ということは非常に難しいのだと思う。特に新山はさや香の漫才を一人でやっている感じがして(それが漫談というものだが)、「だったら二人の方が面白いのでは?」と感じてしまうのも理解できる。
加えて、新山のムーブがバラエティすぎて、審査員も心置きなく評価を下げやすかったのかもしれない。粗品に「酷評ですね!」といじられたときのキレっぷりも面白く、他の芸人だと可哀想に見えそうなところを見事に返していて流石だった。
吉住はずっと高クオリティなネタをR-1で披露しているが、その分、過去の本人のネタが面白いので「自分を超えられていない」と評価された感があった。お笑いはスポーツと違って、タイムや距離など定形的なものでは図れない。
見る人によって尺度が違うので、吉住のように高い標準のネタを作り続けていると、「去年のネタの方が好みだった」「一昨年のネタの方がよかった」と見る人によって評価が細分化されやすいのだ。吉住のライバルは吉住。
さらに今回は、審査員が「爆発」「裏切りの展開」みたいなものをかなり重視していたので、二人のネタの傾向では難しかったかもしれない。特にハリウッドザコシショウはんは綺麗なネタを評価しない傾向が強い。
「ばれてなかった」友田オレ。R-1はカオスさも面白い
その点、最年少で最も露出が少ない友田オレが「ばれていない」という強みを大いに発揮して、勝利をつかみ取ったのだ。こういう時勢や展開を掴むというのも、芸人の才能のひとつだ。
では、「R-1は売れていると不利なのか?」と思うかもしれない。僕の感覚で言うと、「決勝では不利。予選では大いに有利」だ。
先ほど上で語ったように、決勝では手口がばれているので不利なのは確か。ただ、R-1の予選だけで言うと、名が知れていると「かなり」勝ち上がりやすい。これはM-1やキングオブコントよりも「かなり」と言ってよい。
なぜならR-1の予選は死ぬほど重い。「この世の地獄を見たいならR-1の一回戦に行くべき」というくらい重い。誰も笑わない。
R-1の一回戦でウケるのは認知度が高い芸人か、それこそ決勝にまで上がれるような力を持った芸人のみ。名が知れていると重い空気をひっくり返せるので勝ち上がりやすいが、決勝では「有名」が弱点になり負けやすいという何とも皮肉な大会だ。
お笑い賞レースといえば「M-1」のイメージがある人も多いと思うが、R-1は予選のカオスさも含めて面白い。興味を持った人は、予選も合わせて楽しんでみてほしい。
(帽子田/芸人、ライター)