<51>接写レンズで撮ったモノの「部分」にはエロスとタナトスをすごく感じる
エロトス(2)
この写真、おもしろいだろ。『エロトス』(1993年刊写真集)に入れた写真で、歯磨きしているセルフポートレートなんだよ(①)。リングストロボの形が予想以上にまんまるで、おまけに輪っかの中にもうひとつオマケがあって、嬉しかったね。偶然が味方してくれたんだよ。
■リングストロボはすべてをさらけ出すライティング
エロス(性)とタナトス(死)が同時に入ってる。だからエロトスなんだよ(「エロトス」は<エロス>と<タナトス>を組み合わせた荒木の造語)。「エロトス」は接写レンズとリングストロボで撮ってる。接写レンズで撮ったモノの「部分」には、エロスとタナトスをすごく感じるね。すごくスケベなんだよ。それに「部分」っていうことと、もうひとつ、リングストロボの「コト」だね。リングストロボっていうのは、言ってみれば手術台のライティングなんだ。手術のときに上から光を当てても、医者が自分の頭が影にならないように、手元を明るくできる無影灯というライティング、それに近いんだ。リングストロボは、手術台を照らしてる無影灯みたいに影ができない。全方位から、すべてをさらけ出すライティングなんだよ。
やっぱり花はエロティック、花陰はいいねぇ
これは、水に浮かぶ女性のお尻だね(②)。やっぱり花はエロティック、花陰はいいねぇ(③)。蛇口から出る水も、ストロボだと水がこういう形になるんだよ(④)。この宙から吊られているのは、名作「妻が逝って首吊り自殺したA」、オレのオブジェの第一号だね(⑤)。これはね、陽子がいつも使ってた、フランスパンを切ってた台だね。そのパン切りまな板に色を塗って、取っ手のところがオレの顔で、彼女の陰毛を髪の毛にしたの。で、紐は彼女の着物の帯なんだよ。
なんでも、どこでも、接写してストロボ。光らせると、すべて愛の「部分」になる。エロトスとは写真の「コト」であり、人生の「コト」なんだ。
(構成=内田真由美)