著者のコラム一覧
荒川隆之薬剤師

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

【破傷風】毒素に抗菌薬は無効…治療や予防にはトキソイドが使われる

公開日: 更新日:

 前回、空気のない所で繁殖する「嫌気性細菌」、なかでもクロストリジウム属の細菌について触れました。クロストリジウム属細菌の中でも広く知られているボツリヌス菌では、ビン詰や缶詰といった空気を抜いた保存食品(特に自家製のもの)が原因になった食中毒が報告されています。

 同じくクロストリジウム属細菌である破傷風菌も、破傷風を引き起こす細菌として有名です。破傷風菌は土の中などに存在し、多くの場合、傷口から侵入して感染を起こします。ワクチンがあるため予防できる病気なのですが、今でも国内で年間100人ほどが破傷風を発症しています。

 ボツリヌス菌も破傷風菌も産生する毒素が非常に大きな問題となります。どちらの毒素も運動神経の伝達を遮断するのですが、ボツリヌス毒素の場合は筋肉が伸びたまま縮まなくなる弛緩性麻痺を起こすのに対し、破傷風毒素の場合は全身の骨格筋が硬く収縮して麻痺やけいれんを起こします。

 破傷風の症状は、発熱や倦怠感以外に神経が麻痺してしまうことが特徴的です。口を開けにくくなったり、顔の筋肉が引きつったり、手足の筋肉がけいれんしたりします。歩行や排尿・排便の障害などを経て、最後には全身の筋肉が硬くなって体を弓のように反り返らせたり、息ができなくなったりして、死亡するケースもあります(無治療の成人の死亡率は15~60%)。新生児破傷風は、生存しても難聴を来すケースも報告されています。

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